「光回線をどこにするか調べている時にIPv6というキーワードをよく目にする」
「光回線でIPv6を使う時にVNEという言葉も出てきたけど、これは何だろう」
このように、IPv6を調べているうちにVNE(Virtual Network Enabler)というキーワードが気になった方もいるかと思います。日本語にすると仮想固定通信提供者…余計分からなくなりますよね。
簡単に言えばプロバイダにIPv6ネットワークを販売するネットワーク企業。
BtoBだからユーザーに関係ないと思うかもしれませんが、意外にもユーザーに直接関わってくることなので関心を持つのは良いこと。
では、IPv6(IPoE)ネットワークを利用する時のVNE事業者について見てみましょう。
目次
IPv6を提供するVNE事業者とは何かを解説
VNE事業者とは
VNE(Virtual Network Enabler)とは、IPv6ネットワークをインターネットプロバイダに貸し出す事業者のことです。
企業間取引なので一般のユーザーが意識することはほとんどありません。VNE事業者がIPv6ネットワークをプロバイダに貸し出す、つまり卸提供する。
本来であればプロバイダがインターネット接続するためのネットワークを持っています。
ここで、プロバイダがIPアドレスの次世代規格であるIPv6ネットワークもユーザーに提供したい、と思った時にVNE事業者を使います。ネットワーク図は以下になります。
具体的には例えば契約するプロバイダがDTIのときに、IPv6のテストサイトで調べるとISP名がJPIXになります。

光コラボのプロバイダでも実際に使うIPv6ネットワークはJPIX。
インターネット接続は自宅→NTT回線→プロバイダ→世界中のネットワークで、このプロバイダ部分をIPv6としてVNE事業者が代行する形。
プロバイダとしては一からIPv6ネットワークを構築しなくてもいいメリットがあります。
でも依然としてプロバイダは顧客の管理、サポート、料金収納、そして帯域の調整や監視という仕事をします。
VNE事業者はインターネット接続の仕組みの中であくまでもIPv6(IPoE)ネットワーク部分を提供します。ネットワーク機器、サーバー、光ファイバーの管理などです。
なぜVNE事業者を使うのか
VNE事業者はIPv6ネットワークの提供を最初から考慮してネットワークを設計構築しています。
それに対して既存のISPは1990年代から21世紀にかけて構築してきたIPv4ネットワークが中心。これをIPv6ネットワークに置き換えるには多大なコストがかかります。
そしていまだIPv4のWebサーバーが多い。ISPがIPv4をIPv6ネットワークにごっそり切り替えたらIPv4での通信ができなくなる。
現在のIPv4とIPv6が共存している状態であれば、ISPが自らやるよりIPv6ネットワークをすでに構築したVNE事業者を活用すれば効率よく低コスト。
代表的なVNE事業者
IPv6ネットワークを貸し出すVNE事業者にはどのような企業があるでしょうか。
IPoEネットワークを卸提供する企業は、当初は以下の3つの事業会社だったようです。
- インターネットマルチフィード(MFEED)
- BBIX(ソフトバンク系)
- 日本ネットワークイネイブラー(現:JPIX)
MFEEDはIIJの関連企業で他にもNTTや新聞社が出資。設立は1997年。IPv6に対する取り組みも早い時期から始めたようです。
2001年11月にはIPv6/IPv4デュアルスタックサービス開始。IIJとMFEEDはインターネットの分野で国内初として手掛けるサービスが多い。
そしてIIJのバックボーンはインターネット相互接続のJPNAPに100Gbpsのイーサネットをガンガン繋げて日本最大規模のバックボーンネットワークを構築しています。
MFEEDのtransixはIPv4 over IPv6の方式にDS-Liteを使用。
そしてJPIXはKDDI主体ですが複数のプロバイダが参画していて中立的な立ち位置。大規模ネットワークとして接続しやすい環境を整えかつコストが安いようです。
BBIXも様々な拠点にIX(相互接続点)を作り強力なネットワークを構築しています。
IPv6を使う意義
なぜIPv6を使うか。
IPv6を使う最大の意義は速度ではなくIPv4アドレスの枯渇に対応すること。
IPv4アドレスは現在でも使われていますが、日本で使われるIPアドレスを管轄するJPNICはIPv4の新規発行を終了しています。
IPv4は携帯でも使っているので現状問題になっていません。ただ車などの様々なものにIPアドレスを与えれば将来的にIPv6に置き換えないといけない。

なのでスピード云々というより、インターネットそのものを考慮するとIPv6を使っていくことが将来を見据えた動きに貢献できる。
IPv6ネットワークは家庭内LANやデータセンターで使われるイーサネットをインターネットでもそのまま使えるので、通信技術としてはシンプルなものになります。
複雑な処理をしないで自宅からインターネットまで共通のプロトコルを使う。
ユーザーは意識しませんがNTTアクセス回線やプロバイダネットワークの負荷が減ることが期待できます。もちろん速度の高速化も期待できるでしょう。
IPv4 over IPv6とは何か
IPv4 over IPv6は、簡単に言えばIPv4パケットをIPv6パケットにカプセル化(埋め込む)することです。
上記は本当に簡単に書いたもの。IPv6のパケットのデータ部分にIPv4パケットを入れます。
そして、カプセル化させたIPv6パケットからIPv4パケットを取り出す(脱カプセル化)をします。
この技術には複数あり、v6プラスなどが使うMAP-E、transixのDS-Lite、BBIXのIPv6高速ハイブリッド(BBIXの福智COOは4rd/SAM採用を否定しているらしい)です。
IPv4 over IPv6を使えば既存のIPv4ネットワークと新しいIPv6ネットワークを共存させることができます。
VNEを使う事はユーザーにメリットがあるのか
IPv6ネットワークはユーザーが使わないといけないものではありません。
IPv6はオプション扱いだったり有効化手続きが必要など、ユーザーが任意に使いますね。
なのでIPv4 PPPoEというデフォルトの設定(ルーターにユーザーIDとパスワードを入力する)で、特に問題なければIPv6を使う必要はありません。
しかしIPv6はIPv4アドレス枯渇問題に対処するための技術。
なのでISPもユーザーもVNE事業者を使うことは将来的なメリット、少なくとも今後のための投資と言えます。
そしてパフォーマンス向上も期待できる。VNEを使えばNTT回線で混雑する網終端装置を使わないでゲートウェイルーターを使うからです。
ISPはゲートウェイルーターを増設させて回線を増強させることができます。
その他のVNE事業者
プロバイダのASAHIネットやビッグローブもIPv6を持っていてVNEとして回線を貸し出しているようです。
OCNバーチャルコネクトはNTTコミュニケーションズ。
他にも楽天ひかりがアルテリアネットワークスのクロスパスを使っています。
アルテリアネットワークスはUCOM光で独自に光ファイバーを提供していますが、VNE事業者としてもIPv6を他のプロバイダに卸しています。
IPv6はVNE事業者をよく吟味して選択する
というわけでVNE事業者について言及してきましたが、そもそも何のためにIPv6(IPoE)を使うのかというと、最大の理由はIPアドレス枯渇の問題に対応するためです。
もちろんIPアドレス枯渇問題がユーザーに直接影響がある段階ではありません。まだIPv4が使えるからです。
しかし徐々にIPv6ネットワークを使うユーザーが増えていかないと、ずっと旧式のIPv4を使い続けそのうちアドレスが足りない状況になるでしょう。
回線のパフォーマンスやシンプルなネットワークを目指す意味でもVNE事業者のIPv6を使うのは意義があると言えます。
VNE事業者を意識してプロバイダを選ぶのも楽しいですし、何より日本のインターネットインフラを24時間365日運用しているインターネット関係者に敬意を払いたいですね。
参考文献:
VNE事業者とは
IPoE方式とVNEの役割