こんにちは、コンフィグネットワーク大江です。
au(KDDI)の大規模通信障害が発生し携帯電話で全く通話できない障害が丸2日以上続くという、史上最大規模の事故を起こしてしまいました。
auユーザーの中には救急などの緊急通報ができないケースも実際に発生して、いまだ情報通信インフラの脆弱性が解決できていないことを物語っています。
今回の障害でau以外のインターネットユーザーも「もしかしたら自分が使っている回線も障害になるかも…」と不安に思い、何か対策した方がいいんじゃないかと考えているでしょう。
今回は、au回線大規模通信障害の概要と、モバイル回線の障害対策方法を提案します。
結論から言うと個人でできる対策は「冗長化」しかありません。なので、その冗長化の手段はどうしたらいいのか、コストをかけずに冗長化するにはどうするか詳説します。
目次
史上最悪のau回線大規模通信障害が発生
インターネットユーザーにとっても回線事業者にとっても、まさに悪夢と言えるのが通信障害。
いつも使えるはずの電話やインターネットが使えない状況になると、ユーザーのイライラと怒りは爆発し、キャリアの現場は冷や汗いっぱいの緊張感の中で障害対応することになります。
事業者こそ、このような通信障害を起こしたくありません。障害対応の現場はまさに戦場なのです(どうして分かるのかって?筆者もデータセンターで一人で障害対応したことがあるから)。
では、今回のau回線大規模通信障害の概要を簡単に見てみましょう。
au回線大規模通信障害の悪夢
2022年7月2日(土)午前1時35分頃から、auの音声通話とデータ通信が利用しづらい状況が発生。電話ができないだけでなくSMSを送受信できない、そしてデータのトラフィックにも影響が及び、銀行ATMやアメダスといった公共設備が停止してしまう事態に。
実際にいつも見ている気象庁のアメダスは観測地点の気温などが丸ごと表示されなくなりました。普段意識していませんが、正常なモバイル回線前提の仕組みが結構あります。
影響を受けた回線数は最大3900万以上にも上り、急病や事故で緊急通報が必要だったケースも。救急車を呼びたくても呼べない状況は生命に関わる深刻な事態になります。
auと同様に、KDDIのサブブランドであるUQモバイルやpovoも使えないということになります。
auだけでなくMVNOや楽天のパートナー回線にも影響
当然au回線を使うMVNO、例えばIIJmio、mineo、BIGLOBE、NUROモバイルなどにも影響が出ました。楽天モバイルの楽天回線ではないパートナー回線はauを使うので楽天ユーザーにも影響が出たようです。
モバイルWI-FiのWiMAX2+にも影響が出ており、さらにモバイル回線を使うホーム電話、ホームプラス電話という固定電話にも影響が出た模様。
一見すると携帯電話と関係ないようなサービスでも、モバイル回線の電波を使っていれば影響が出るということですね。
丸2日以上電話できない
音声通話がほぼ回復したとしたのは2022年7月4日(月)15時頃、障害が完全に復旧したと宣言したのは発生から約86時間後の2022年7月5日(火)15時36分。
丸2日以上はauで電話できない状態でした。当然、au携帯1台で電話もインターネットも済ませているユーザーは2日以上何もできなくなったわけです。
実際にはデータ通信が生きていてLINE通話ができたという報告もあります。もしSNSや通話アプリで連絡が取れればいいですが、それらは119番や110番ができません。
事故の原因
この大規模障害の原因は何だったのでしょうか。インプレスの記事によると、コアルーター(ネットワーク機器)を旧製品から新製品へ切り替える作業をしていた時に、ルーティングの設定が変更されずVoLTE交換機で輻輳(一か所にアクセスが集中すること)が生じたとのこと。
このVoLTE交換機の輻輳を解決するにはトラフィックの切り戻し(ルーティングの設定を元に戻すこと)が必要なのですが、戻しても結局アクセス集中で輻輳が解決できず長時間のネットワークダウンとなりました。
ネットワークを一気に復旧させようとするとまたアクセス集中でダウンしますので、徐々に復旧しないといけません。なので復旧に86時間かかったのです。
障害発生時にキャリアが別キャリアにトラフィックを迂回することはできない
インターネットユーザーの中には「携帯電話の障害対策のために個人で追加のコストなんか払えない。キャリアが迂回させたりして万が一のための仕組みを構築すべきだ」という意見も見られます。
果たしてそれは実現できるでしょうか。
考えてみてください。ある携帯キャリアのネットワークが障害を起こした時にユーザーのトラフィックが別キャリアに迂回(ローミング)されたら、迂回された方のキャリアにトラフィックが集中して迂回を受け付けたキャリアのネットワークもダウンしてしまうでしょう。
ドコモ回線がダウンしてドコモの8000万ユーザーがau(KDDI)に難民のようになだれ込んできたら、ドコモのネットワークもauのネットワークも崩壊するのです。
「ソフトバンクや楽天も含めて負荷分散させればいい」と思いますか。そのネットワークは一体どこのネットワークですか。誰がお金を出しますか。つまり、携帯の障害発生時に別キャリアにトラフィックを迂回させることは不可能なのです。
しかし最近は障害発生時のローミングを検討している話が出てきました。とはいえ、ローミングそのものの技術的課題、費用、運用を解決することは簡単ではないでしょう。
au大規模通信障害から学べること
インターネットユーザーはこのことから何を学べますか。どのような教訓を当てはめることができるのでしょうか。ユーザーは以下の認識を持つと良いかもしれません。
- 完全なものは存在しない
- 想定外の事象がいつでも起こりうる
- 回線の冗長化を考える
- 冗長化にコストをかけたくないなら障害を受け入れるしかない
完全なネットワークは存在しませんし、今は人が想定していないことが突然起きる世の中です。そして回線冗長化にコストをかけたくないと思うなら、通信障害が起こっても復旧までひたすら忍耐するしかなく復旧までの時間が早まるよう祈るしかないのです。
そして、これから携帯ショップやコールセンターは通信障害が起きた時に備えて「とんでもインターネットユーザー」からのクレーム処理手順をマニュアル化して整備し、涼しい顔で対処していかなければなりません。
いずれにしろ、インターネットユーザーも回線事業者もショップ店員もコールセンタースタッフも、障害が起きた時にどれだけ涼しい顔でいられるか試される機会が増えていくということです。
一般ユーザーもできるモバイル回線の障害対策
前項までau大規模通信障害の概要を見てきました。
大規模通信障害は、インターネットユーザーだけでなく事業者やショップ店員、コールセンタースタッフが冷や汗をかきながら疲労、消耗し、悪夢の1日いや3日を過ごすことになります。
では、我々インターネットユーザーはどうしたらいいですか。
携帯電話やモバイルインターネットが日常である現代のユーザーは、大規模通信障害に対してどのような対策をしたらいいですか。
冗長化とは
すでにお分かりのように対策は簡単で、ユーザーが自分で回線を二重化(またはそれ以上)していくしかありません。この二重化をネットワーク用語で「冗長化」と言います。
冗長化つまり今使っている電話やネット回線とは別に、もう一つ別のキャリアの回線を契約すると比較的安心。デュアルSIMやeSIMを活用してください。
ネットワークやサーバーが集積しているデータセンターはこの冗長化がシステムに施されています。一方の経路が障害を起こしたら他方の経路にトラフィックを迂回させます。
ただ、よくある話が「経路が切り替わらない」。冗長化を組んでいるのにトラフィックが迂回されないで、結局ネットワークやサーバーがダウンすることがよくある。
今回の大規模障害も経路切り替えが機能しなかったことが原因でした。
話がそれましたが、ユーザーとしては昨今の通信障害多発に対応するために別回線の導入を検討した方がいい段階になってきたと言えます。
携帯の音声回線が2つあってもいい時代になってきた
今回の障害は主に音声回線でした。なので通話したいと思ったときにできない、特に緊急通報できないのは致命的と言えます。
なので、この場合データ通信専用回線をバックアップにしても役に立ちません。データ専用は文字通りネット専用で話せません。
もしかしたらこれまでは、データ専用で回線を二重化しておけばいいだろう、音声は1回線でいいだろうと思って運用してきましたが、現在は音声すらも二重化した方がベターという時代になってきました。
もちろん先述したように、バックアップ回線なんかにコストをかけたくないと思うなら、大規模通信障害が起こったときに長時間通話やネットができなくてもそれを受け入れるしかないのです。
MVNOの注意点は優先制御されないこと
MVNOはトラフィックで優先制御されない、つまりアクセス集中すると速度低下するのが特徴です。前述の中では日本通信(b-mobile)、IIJmio、mineo、NUROモバイルですね。
なのでもし災害などでトラフィック増になるとMVNOの接続が低速もしくは不安定になる可能性があります。
MVNOの品質を不安に思う場合はMNOである楽天モバイルかLINEMOミニプランがおすすめ。とはいえ完全はありませんので、気持ち安心程度に考えてください。
冗長化は災害対策にもなる
多くの記事と同じ結論ですが、回線冗長化は災害対策にもなります。トラフィックが急増する地震発生時はモバイル回線が不安定になります。
そこで最大100時間稼働できる基地局があるソフトバンク回線か、仮想化ネットワークの楽天回線を使うことは少し安心材料になるかもしれません。
一般ユーザーも回線の冗長性を高めて運用する時代に
携帯キャリアがユーザーのことを考えて障害発生時にトラフィックを別キャリアに迂回させることはできません。大規模通信障害の時は誰も助けてくれないのです。
であれば、インターネットユーザーは自分で回線の冗長性を高める必要が出てきた時代と言えるでしょう。2020年代はインターネットユーザーのリテラシーが日々試されることになります。これから毎日そうなります。
冗長化、セキュリティ、なりすまし対策、フィッシング対策、二段階認証、暗号化など、昔は事業者が考えなければならなかったことを一般ユーザーが考えないといけない時代になりました。
まずは謙遜に物事を考えて、「自分はいつも学んでいかなければならない」という姿勢でこれからの厳しい時代に対処していきましょう。